利用ガイド
これから環境を整える人のための順路である。どこから始め、何をきっかけに足し、どう組み合わせるか。既に困りごとが起きているなら、困りごとから引くから入るほうが早い。
本カタログには17本のパターンがあるが、17本を最初から全部入れることは想定していない。パターンの多く — 常駐の命令、委譲の境界、承認の関門 — は入れること自体にコストが付く。常駐は毎ターン載り続け、境界には往復の費用がかかる。だから順路は一方向である: 最小から始め、困りごとが観測されたときに、その困りごとに対してだけ足す。
導入の階段
パターンを選ぶ前に、いまの使い方がどの段にあるかを確認する。段が上がるほど、管理する物と壊れ方が増える。
| 段 | 使い方の形 | 増える管理物 | 入口になるパターン |
|---|---|---|---|
| 0 | その場の会話だけで使う | 会話そのもの | セッション境界の設計/思考深度をタスクに合わせる/成果物の差分レビューと段階的採用 |
| 1 | 常駐の命令ファイルを置く | 常駐コンテキスト | 命令の階層化と適用範囲の限定/ルールを拘束力で階層化する/命令の正本を一つにする/常駐物の棚卸し |
| 2 | 調査・作業を委譲し、並列化する | 境界と、その費用 | 読み捨ての隔離/委譲の損益分岐 |
| 3 | 人が見ていない経路に乗せる | 権限とゲート | 無人経路にこそ強いゲート/権限を構造で縛る/機械ゲートと意味ゲートの分離 |
この段は捨てる順ではなく、足す順である。上の段に上がっても、下の段のパターンは効き続ける。むしろ段0〜1の整理 — 何を常駐させ、どこで会話を切るか — ができないまま委譲や無人化に進むと、同じ乱雑さが委譲先と無人経路に複製される。段を上がるのは、いまの段で困りごとが観測されてからでよい。
任せる前の点検
これから任せる一つの仕事に対して、どのパターンを併用するかを決める。分岐ではなく点検の列であり、「はい」が付いた行のパターンをすべて併用する。
同じ点検を、リンク付きの表で引けるようにしておく。
| 問い | 「はい」なら併用する |
|---|---|
| 方向を誤ったときの手戻りが大きいか | 計画の先制検証 |
| 読む量が持ち帰る量を大きく上回るか | 読み捨ての隔離。値札は委譲の損益分岐で見る |
| 仕事が一回の会話に収まらないか | セッション境界の設計 |
| 不可逆な操作の権限を渡すか | 権限を構造で縛る |
| 人が見ていない経路で走るか | 無人経路にこそ強いゲート |
| (どの仕事でも)何を確かめれば合格か | 検証対象の明示/機械ゲートと意味ゲートの分離 |
| (どの仕事でも)成果物をどう受け取るか | 成果物の差分レビューと段階的採用 |
5つの経験則
環境や仕事の性質からパターンを絞り込むための経験則である。それぞれの根拠は、各パターンのページが出所ラベル付きで持っている。
第1則: 指示より構造
「気をつけて」という指示は文脈に埋もれて忘れられるが、構造は忘れられない。危険な操作を止めたいなら、注意書きを増やすのではなく権限を構造で縛る。人が見ていない経路なら、なおさら無人経路にこそ強いゲートを置く。
第2則: 機械に判定できることを、モデルに判定させない
lint・テスト・型検査で判定できる正しさを、モデルの目視に任せない(機械ゲートと意味ゲートの分離)。再現可能な計算も同じである — 計算をコードに落とす(LLM に電卓をやらせない)。そのうえで、何を確かめれば合格なのかをモデルの推測に任せず、契約として渡す(検証対象の明示)。
第3則: 常駐は家賃
毎ターン載り続ける物は、載せた瞬間ではなく運用の全期間で費用を払う。足す前に常駐物の棚卸しの基準で数え、足すなら適用範囲を限定して足す(命令の階層化と適用範囲の限定)。並び順にも意味がある — 変わらない物を前に置けば再利用が効く(前置きを壊さない(キャッシュ))。
第4則: 委譲には値札が付いている
隔離と委譲は主コンテキストを守るが、無料ではない(委譲の損益分岐)。隔離するかどうかは、タスクの大きさではなく読む量と持ち帰る量の比で判断する(読み捨ての隔離)。
第5則: 人が入るのは、直すのが最も安い時点
実行前の計画は最も安く直せる成果物であり(計画の先制検証)、出てきた成果物は全部受けるか全部捨てるかの二択にしない(成果物の差分レビューと段階的採用)。それでも起きた失敗は、抽象的な戒めではなく具体で記録して再発を止める(失敗の制度記憶化)。
足すのは、困りごとが観測されてから
複雑さを後から足すための進め方である。
- 最小で始める — 常駐の命令は薄く保ち、その場だけの指示はその場で渡す。段0〜1で仕事を回す。
- 観測されてから足す — 失敗や不便が実際に起きたら、困りごとから引くで該当パターンを特定し、その困りごとに対してだけ足す。
「いつか必要になるかもしれない」でルールや常駐を先に足すのは、家賃の先払いである。足した物自体が常駐コンテキストを膨らませ、重要な制約を埋もれさせる。足したら常駐物の棚卸しの対象に載せ、効いていない物は下げる。
パターンは組み合わせて使う
実際の運用は単一パターンでは完結しない。典型的な組み合わせ:
- 大規模コードベースの調査 = 読み捨ての隔離 + 委譲の損益分岐 + セッション境界の設計
- 長丁場の実装 = 計画の先制検証 + 検証対象の明示 + セッション境界の設計 + 成果物の差分レビューと段階的採用
- チームで命令ファイルを整える = 命令の階層化と適用範囲の限定 + ルールを拘束力で階層化する + 命令の正本を一つにする + 失敗の制度記憶化 + 常駐物の棚卸し
- 無人の自動実行に乗せる = 無人経路にこそ強いゲート + 権限を構造で縛る + 機械ゲートと意味ゲートの分離 + 成果物の差分レビューと段階的採用
各パターンのページ末尾「関連」が、隣接パターンとの境界と組み合わせの起点を書いている。